『クオリティ・グロース投資入門』を読んで売上高成長率によるスクリーニングが効率化しました

株式投資の対象をふるい分けするのに、PERや配当利回りといった株価と関係のある指標ではなく、成長率や利益率といった業績と関係のある指標を、私は使っています。成長率の場合は10年での成長を年平均で評価します。

成長率の数値は合格だったとしても、期間内における業績上昇のパターンはいろいろあります。理想は毎年同じ割合で成長するパターンですが、そんな会社はほとんどありません。どのぐらい理想の成長パターンに近いのか、その判断を今までは、なんとなく感覚的に行なっていました。しかし、山本潤『統計学を使って永続的に成長する優良企業を探す クオリティ・グロース投資入門』(パンローリング)で解説されている手法を使うことにより、数字で比較することができるようになりました。



グロースリターンを使うことで、着実に成長している銘柄を選び出せる

私は株式投資の対象となる銘柄群を選抜する前に、過去10年の売上高成長率、過去5年の営業利益率でスクリーニングを行います。PERや配当利回りは使いません。株価が安い銘柄の中から良いものを探すのではなく、良い銘柄の中から株価が高すぎないものを選びたいからです。

売上高の年平均成長率は高いほど良いです。しかし、年平均成長率の算出に必要なのは、10期前の売上高と今期の売上高のみです。その間の売上高がどのような結果だったかは考慮されません。毎年一定の割合で成長しても、山あり谷ありでも、ずっと横ばいだったのが直近でたまたま業績に良い風が吹いた場合でも、10期前と今期の売上高が同じであれば、すべて同じ成長率になってしまいます。

私が選びたいのは売上高が安定的に成長している企業です。なぜならば、毎年一定の割合で成長するのには成長戦略と競争環境に構造的な理由があり、その構造が崩れない限り今後も同じような成長が続くと考えるからです。そのような銘柄を選ぶためには、まず売上高成長率でスクリーニングを行った後で、売上高のばらつきが大きい銘柄をふるい落とす必要があります。

『クオリティ・グロース投資入門』で解説されるグロースリターンは、期間内における業績のばらつきを取り入れた成長率の指標です。業績のばらつきが小さければ単純に計算した年平均成長率に近い値となりますが、ばらつきが大きければ、年平均成長率はプラスの値なのにグロースリターンがマイナスの値になってしまうことも、よくあります。グロースリターンを使うと、売上高を並べただけの表やグラフの比較では同じぐらい良く見える銘柄を数値で比較することが可能となります。

それでは、グロースリターンについて、もう少し詳しく説明しましょう。説明のために数式が出てきますが、出版社が配布しているExcelファイルを使用すれば売上高の数字を11個入力するだけで計算結果がわかるので、心配しないでください。

グロースリターンは売上高変化率の期待値

グロースリターンは  \displaystyle \mu_L - \frac{\sigma_H^2}{2} で表されます。

ここで  \mu_L は過去10期間の売上高変化率データから推測した売上高変化率母平均の推定値です。母平均というのは限られたサンプルからは算出することができません。未来も含めて全部のデータを集めるか、推定するしかありません。  L の添字が付いているのは、推定される範囲で最も低い値という意味になります。

 \sigma_H は過去10期間の売上高変化率データから推定した売上高変化率の母標準偏差の推定値です。母標準偏差というのはデータのばらつき具合のことです。  H の添字が付いているのは、推定される範囲で最も高い値という意味になります。

グロースリターンは、売上高変化率の期待値を意味しています。数式から、ふたつのことがわかります。ひとつめは、売上高変化率のばらつきである  \sigma_H が大きければ小さくなることです。ふたつめは、かなり厳しい条件で予想した場合の期待値であることです。推定される範囲から、小さい  \mu と大きい  \sigma を選択しているからです。

グロースリターンが売上高変化率の期待値ならば、将来の売上高を計算できることになります。もちろん『クオリティ・グロース投資入門』ではその方法も解説されています。しかし、本記事は売上高成長率でのスクリーニングが本題ですから、それはまたの機会に紹介することにして、グロースリターンのみで判別できることを解説します。

グロースリターンがゼロより大きければ合格

『クオリティ・グロース投資入門』ではグロースリターン判別式  \displaystyle \mu_L - \frac{\sigma_H^2}{2} > 0 で成長率を評価するとしています。もちろん数値は大きいほどよく、できれば6%ぐらいが望ましいとしています。

私の保有銘柄でグロースリターンが大きい上位5銘柄を表にまとめてみました。

銘柄名 グロースリターン [%]
MonotaRO
16.6
日本ケアサプライ
8.6
ZOZO
8.1
オービック
4.6
JACリクルートメント
4.0

『クオリティ・グロース投資入門』によると、オービックは米国のマイクロソフトとともに、クオリティ・グロース銘柄の代表例だそうです。

私の保有銘柄数は多くありませんが、そのほとんどはグロースリターンが正の値となっています。どれも『クオリティ・グロース投資入門』を読む前から保有していましたので、自分の投資スタイルにぴったりな本に出会って投資判断の効率化ができたことになります。

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グロースリターンを算出すると、売上高成長率が高いだけでなく成長率の安定性も高い銘柄を探し出すことができます。『クオリティ・グロース投資入門』では計算方法だけでなく、そのような銘柄の定性的な特徴についても参考になる記述がたくさんあります。とてもおすすめの投資本です。